| 「中沢万里子ピアノスペース2008」は、アコスタジオという東京原宿の特別に親密な音楽空間を使った中沢万里子さんのリサイタル・シリーズである。通算第66回、67回を数える今年も、幅広い聴き手の方々を配慮したプログラムが組まれている。
5月の第66回は、ベートーヴェンのソナタ第1番で始まる。かつての師ハイドンに捧げられた3曲のソナタの最初のもので、もっとも激しい性格の意欲作である。ハ長調のロンドは、その2年後の作品。流麗で親しみやすい主題が、再現のたびに変奏されるのが特徴である。次は一転してスペイン国民楽派を代表する作曲家たち。グラナドスの《アンダルーサ》はアンダルシア地方の印象でギター奏法が模倣される。アルベニスの古都《グラナダ》の雰囲気。《セギディーリャ》はスペインを代表する舞曲のリズムが用いられている。これらに続いて、中沢さんの愛奏曲であるドビュッシーとショパンの名曲が並ぶ。とくに色彩鮮やかなドビュッシーの《花火》とゴンドラの歌のリズムに乗ったショパンの《バルカローレ》は技巧的な難曲としても知られている。
9月の第67回は、モーツァルトとベートーヴェンのふたつのソナタの間に色とりどりの性格小品が挟まる。モーツァルトのソナタは優雅な音調と終曲の「トルコマーチ」によって広く親しまれている第11番イ長調。ベートーヴェンは最後の第32番ハ短調。楽聖が辿りついた究極のソナタといえる傑作。この2作の間に置かれるのは、シューベルト、チャイコフスキー、ラフマニノフ、ショパン、ブラームス、リストのそれぞれ代表的な小品。ロマン派ピアノ音楽のさまざまな局面を伝える名曲ばかりで、しかも関連性とコントラストに工夫した配列が楽しめる。
今年も、中沢さんのピアノを囲んで、とても素敵な時空間が生まれることと思う。 |